第44回『閉めない戸口』

みなさん、こんにちは。
株式会社アドバンテッジリスクマネジメントのキティこうぞうです。
今回は、私と同じ日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラーの中山和義さんからお聞きした「閉めない戸口」というお話をご紹介します。

小さな村の小さな家に母親と娘が暮らしていました。
母親は日が暮れると「泥棒が来るかも」と鍵をきっちり閉める人でした。
娘は母親のように田舎でうずもれてしまう生活が我慢できなくなって、ある朝、「お母さんへ 親不孝の娘のことはどうか忘れてください」と手紙を残して都会へ行ってしまいました。
しかし、都会での生活は厳しくて、なかなか娘の思うようにはいきませんでした。

10年後、都会の生活に疲れた娘は、田舎に帰ってお母さんに会いたいと思い故郷へ向かいます。
10年ぶりの帰郷でしたが、家は昔のままでした。
辺りはすっかり暗くなっていましたが、窓のすきまからはかすかな光が漏れていました。
ずいぶんと迷ったあげくに、娘はようやく戸口を叩きました。
けれども返事がありません。
思わず取手に手をかけると扉の鍵が開き、部屋に上がってみると、やせ衰えた母親が冷たい床の上に一人で寝ていました。
思わず娘は、母親の寝顔の横にうずくまると肩を震わせて泣きました。
その気配で気づいた母親は何も言わずに娘を抱きしめました。

しばらくたって娘は母親に、「今夜はどうして鍵をかけなかったの?誰か入ってきたらどうするの?」とたずねました。
母親は優しい笑顔で娘に、「今夜だけじゃないよ。もしお前が夜中に帰って来たとき、鍵がかかっていたらどこかに行ってしまうんじゃないか、そう思ってこの10年間ずっと鍵をかけられなかった」と答えました。
その夜、母娘は10年前に時を戻し、鍵をきっちりかけ、寄り添いながらゆっくり眠りにつきました。

みなさんにとって大切な人は誰ですか?
その大切な人に心配をかけていませんか?
みなさんは人の迷惑を考えずに自分の権利を主張したり、自分勝手な行動をしたりして、知らず知らずのうちに大切な人を傷つけたことはありませんか?
今一度、みなさんも考えてみましょう。

関連記事はこちら