第75回「坂の上の坂」

みなさん、こんにちは。株式会社アドバンテッジリスクマネジメントのキティこうぞうです。今回は株式会社リクルート出身で、東京都初の民間人公立中学校長を務められた藤原和博さんの著書「坂の上の坂」をご紹介します。その冒頭にはこう書かれています。

司馬遼太郎さんの名作に小説「坂の上の雲」があります。明治維新から日露戦争の時代の日本人の心意気を、見事に描いた作品でした。この小説がどのくらい日本人に大きなインパクトを与えたかというのは、シリーズ累計で1900万部という驚異的な部数にも表れていると思います。それだけ日本人は、あの「坂の上の雲」の時代が好きなのではないか、と思うのです。あの時代、人々の視線の先にはロマンがありました。夢がありました。そして目の前の坂の上には、見上げる「雲」がありました。…(中略)…しかし、日本への、さらには過去に生きた日本人への思い入れを持つことはさておくとして、今と昔では大きく違うことがあるのを忘れてはならないと思っています。それは、日露戦争を戦った約100年前、「坂の上の雲」世代の平均寿命は、今の半分だったということです。…(中略)…例えば60歳から65歳で仕事をリタイヤしても、死ぬまでの時間はまだまだ相当にあります。平均寿命を考えただけでも、20年、30年とあるのです。「坂の上の雲」の時代に比べて、人生が圧倒的に延びました。…(中略)…とすると、坂の上にあるのは、「坂の上の雲」の時代のような、ぼんやりとした「雲」では、もはやないのではないか。私はそんなことを思うようになりました。待ち構えているのは、実は「雲」ではなく、次の新たなる「坂」なのではないか、と。「老後」が20年、30年とある。それは、これまで一生懸命に仕事をしてきた時間とほとんど同じだけあるということです。…

藤原さんが研修の講師をするときに受講者にやっていただくワークがあるそうです。「人生のエネルギーカーブを図にしてください」というものです。横軸を人生の歩みとして、一番左が0歳で生まれたとき、一番右が死ぬときとします。縦軸は、その時々における人生のエネルギー量とします。みなさんはどんなグラフを書くでしょう。今までの人生の歩みによって、現在の時点より左側のグラフは上がったり下がったりすることがあるでしょう。ただ、現在から右側のグラフについては、20歳代の方であればまだまだ上向きが続き、50~60歳ぐらいのところから下向きになってくるでしょうし、60歳代の方であればすでに下向きのグラフになっているかもしれません。

藤原さん曰く、「多くの方がこのワークでは山なりのカーブを描いてしまう」とのこと。カーブといわれるとついつい山なりに書いてしまうということもありますが、これこそが、戦後に生まれたにもかかわらず、私たちの世代が「坂の上の雲」世代の世界観で生かされてきた証ではないのか。こうした「人生はひと山だ」という先入観は、これからを生きる「坂の上の坂」世代を不幸にします。「仕事」や「子育て」という山を越えても、その先の時間はまだまだ長い。でも考え方を変えれば、もう「ひと山」「ふた山」を作ることができます。ひとつ目の山を上ってきた価値観を冷静に見つめ、見直すべきところを大きく見直すことで新しい「上り坂」を作ることができる、と藤原さんは言っています。

では、「坂の上の坂」をうまく上っていくためにはどうしたらいいのか。老後に向かって「これからは下り坂だ」という意識を捨てて、これからやってくる「上り坂」の存在にいち早く気づいて準備を始めることです。具体的には、「仕事」や「子育て」がいつかは終わることを意識して、早めにそれ以外に自分が帰属するコミュニティ(地域や趣味などのつながり)を見つけましょう。そして「上り坂の途中で死を迎える」意識を持って、老後に向けての新たなる「上り坂」を上っていきましょう。

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