みなさん、こんにちは。株式会社アドバンテッジリスクマネジメントのキティこうぞうです。
フランスのナンシーという町にエミール・クーエという薬剤師が開業していました。ある日、一人の男がある薬を欲しいから売ってくれるようにと頼みました。クーエは自分のところにある薬がすでに期限を過ぎているだけではなく、色も褪せているので、「この薬は腐っていて成分も変わっているから、売るわけにはいかない」と断わりました。すると、その男は「その名前の薬は効くから、古くなっていてもいいから売ってくれ」と懇願したので、クーエも「では責任は取らないから」と売ることにしました。 数日するとその男が現れて、「あの薬をのんだら病気が治った」とお礼を述べました。 驚いたクーエは「効かないはずの薬がなぜ効いたか」を疑問に思い、薬の効果には薬という物質の他に、「薬を飲めば、病気は必ず治る」という思いが働くのではないかと考えました。クーエは薬剤師をやめ、「クーエの自己暗示療法」という治療法を始め、世界的に有名になりました。
クーエは自身の著書「自己暗示」(法政大学出版局、河野徹訳)で以下のように述べています。長さ10メートル、幅30センチの厚板を地上に置き、その端から端までを歩く事は誰でも簡単にできます。しかし、この板を大寺院の塔の上に渡せば、ほとんどの人は1メートルも進めないでしょう。そればかりか、足を踏み外して落ちる人が続出するに違いないでしょう。
これは、人間には意識している自己(意志)と意識していない自己(想像力)があり、この場合は意識している自己(歩こうという意志)を意識していない自己(できないという想像力)が打ち負かしているためだとクーエは言っています。つまり、脳が無意識的に落ちる光景を想像してしまって、いくら意識的に「落ちないように歩こう」と言い聞かせても、身体は「落ちるかもしれない」という意識していない自己の想像力によって歩けなくなってしまうのです。
クーエは、自己暗示とは「想像力が人間の精神と肉体に及ぼす影響」として、この想像力を意識的に制御誘導することが可能であるとし、自己暗示療法に用いているのです。また、人間は「一時に二つのことを考えるのは不可能である」ことから、もし病人に「病状が快方に向かっている」と思わせることができたら(病状が悪くなっていると考えることができなくなり)、その病状は消えるだろうと言っています。つまり、大寺院の塔の上の厚板を渡る人にタイル職人や大工のように「簡単に歩くことができる」と意識的に想像するように誘導できれば、厚板を地上においた場合と同様に端から端までいとも簡単に渡ることができるのです。
同様に、病人は「治りたい」という意志ではなく「必ず治る」という意識的な自己暗示により病状が改善し、不眠症の人は「眠ろう」ではなく「私は眠くなる」、禁煙しようとする人は「禁煙しよう」ではなく「タバコをやめられる」という自分の想像に導くことにより、困難な状況から脱出できるのです。
クーエは自分には人を治す力などなく、患者を健康にする道具は彼ら自身の中に備わっていて、自分は健康についての考えを彼らの内面に呼び起こす助けをしているにすぎないとして、「クーエの自己暗示」として知られている「毎日あらゆる面で、私はますますよくなっていく」(Day by day, in every way, I’m getting better and better.)という暗示文を毎日何度も繰り返し自分に言い聞かせることでその効果が実感できると言っています。自己暗示療法に興味のある方は一度お試しください(終)。