第66回『失敗という体験は学びの体験』

みなさん、こんにちは。株式会社アドバンテッジリスクマネジメントのキティこうぞうです。今回は「自分は何をやっても失敗する」などと落ち込んでいる人や仕事上の失敗をストレスと感じている人に特に聞いていただきたい話です。

2011年3月に東京電力福島第一原子力発電所で発生した原発事故で、事故の原因を調査する「事故調査・検証委員会」が設置されました。そして、その委員会の委員長として東京大学名誉教授の畑村洋太郎氏が起用されました。しかし、畑村先生の専門は原子力や放射線ではなく、地震でもありません。彼の専門は「失敗学」です。

失敗学とは、事故や失敗の事例を集めて原因を究明し、同じ事故や失敗を繰り返さないように防止策の策定や知識の共有を行なうという学問です。畑村先生はその著書「失敗学のすすめ」の中で、失敗を未知との遭遇による「良い失敗」と、人間の怠慢による「悪い失敗」の2種類に分け、不可避である「良い失敗」から物事の新しい側面を発見し、「悪い失敗」を最小限に抑えることが重要と説いています。

どんなに避けようとしても、失敗はするものです。しかし、致命的な失敗をしないためには、小さな「訓練失敗」を行なうといいと畑村先生は言っています。たとえば、消防訓練や避難訓練などを通じてあらかじめ「思い通りにいかないこと」を体験することにより、実際の失敗を想定して「そのときどうするか」という選択肢をたくさん蓄積することになります。これが訓練失敗の効果です。親が見ている前で子供にナイフを使わせると、使い方を失敗してちょっと指を切るかもしれません。しかし、それによって子供はナイフが危険なものだとわかり、使い方に注意するようになります。その結果、重大な事故の危険が減ります。このように、安全が確保されている中で失敗ができるという訓練失敗を普段の生活の中でも行うことがすごく大事なのだそうです。

失敗に関して有名なエピソードを持っているのがエジソンです。エジソンは電球を発明するまでに一万回も実験をして、ようやく電球のフィラメントに適する物質を発見しました。成功を発表する記者会見で、エジソンは新聞記者から「あなたは電球を発明するまでに一万回も失敗して、さぞや落ち込んだことでしょうね」と質問されました。この質問に対してエジソンは「いいえ、私は一回も失敗なんてしていませんよ」と回答しています。エジソンは電球のフィラメントに適さない物質を毎日発見していたのです。そして、適さない物質を一つ一つ排除していくことで、成功へ着実に近付いていたわけです。

畑村先生やエジソンの話から、私は人間には「失敗という体験」はないと思います。人間の体験は「成功体験」と「学びの体験」の2つなのです。失敗を恐れて前に進めずにいる人に私は一言言いたい。失敗しないためには「挑戦しない」「何もしない」のがいいのでしょうが、もし人間に「失敗という体験」というものがあるのであれば、それは唯一「挑戦しないこと」「何もしないこと」ではないでしょうか。いかがでしょう。

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