第82回「相手に気遣う日本の良き伝統」

みなさん、こんにちは。株式会社アドバンテッジリスクマネジメントのキティこうぞうです。今回は、私が前職のデパート勤めだったとき、あるセミナーで「相手に気遣う大切さ」について聞いた話をお伝えします。

豊臣秀吉が夏のある日、鷹狩りで遠出をしました。その帰りに石田三成がいる寺に立ち寄り、「茶を一杯くれ」と言いました。接待に出た三成は最初にぬるいお茶をたっぷりいれて出しました。秀吉は、「もう一杯くれ」と言います。次はやや熱めのお茶をふつうの量で差し出しました。三たび、秀吉が「もう一杯くれ」と言うと、今度は熱いお茶を小量差し出しました。まず、三成は秀吉が大量の汗をかいているのを見て、炎天下を移動してきた後だと見抜きました。そこで「ごくごくと飲みたいだろう」と頭を働かせ、一杯目は飲みやすいぬるいお茶をたくさん出したのです。「もう一杯くれ」と言われた時、三成は秀吉が「ちょっとだけ飲み足りないな」という表情をしているのを読み取りました。そこで、少し熱めにしたお茶を適度な量で出しました。さらに「もう一杯くれ」と言われた時は、「もう量が欲しいのではないな。お茶を味わいたいのだな」ということを察して、熱いお茶を小量出したのです。この接待に感心した秀吉は三成をもらいうけて家来にし、かわいがったと言います。

この話は「三椀の才」という有名なお話ですが、この「お茶をいれる」という日本の良き伝統が消えていくのではないかという悲しい調査結果が出ました。昨年初めに佐賀県で行われたある教育団体の全国集会で「最近の高校生は急須を使えない」という報告があったそうです。その報告によると、ある高校の家庭科の女性教師が授業でお茶をいれる実習を行ったところ、1年の男子生徒から「先生、この急須を火にかければいいですか」と聞かれてあわてて止めたといいいます。前年にもこうした生徒がいたので教師はアンケート調査で「冬場に家庭ではどうやってお茶を飲むのか」と質問したところ、「急須にお茶を入れ、飲む」と答えたのは全体の21%、その他の回答では「あらかじめ作ってある麦茶などを沸かして飲む」が50%、「ペットボトルのお茶を購入」が13%、「水を飲む」が15%となっており、明らかに急須でお茶を飲む習慣がすたれていることを裏付ける結果になったそうです。

また、つい先日驚きの新商品が発売されたニュースを目にしました。前からでも後ろからでも履けるサンダル「ぬきっパ」です。日本では家に上がるときに履物を脱ぎますが、そのまま脱ぐと次に家を出るときに履物をくるっと反対に向けてから履かなければならないので、その手間を省くために前からでも後ろからでも履くことができるように考えられた商品です。私は子供のころに親から他人の家に行ったときは自分の靴を揃えて、他の人の靴も揃えてから家に上がるように教えられました。それが日本で生活するための最低限のルールだと今でも思っています。今後はこのような習慣もなくなっていくのでしょうか。

先ほどのお茶の飲み方の変化やこのスリッパに代表されるように、日本人は自分にかかるストレスを少なくするために新しい生活スタイルを生み出す一方で、「相手に気遣う」という日本の良き伝統を失いつつあるのではないか心配です。便利でストレスの少ない生活を目指すのも悪いことではありませんが、日本の将来を担う子供たちにこのような日本の良き伝統を引き継いでいくのも私たち大人の役目ではないでしょうか。

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